第2章 第二章迷える子羊
たどたどしくもあるけど指は動いた。
怖いと思っていたのに、平気だったのは髭切の御かげかもしれない。
雑音が聞こえない。
私の音楽を否定する声も――。
目を閉じながら一曲を弾くと。
「「「ブラボー!!」」」
拍手が送られる。
「すごいよ主」
「ああ、見事だ」
髭切と膝丸が喜んでくれた。
「僕は西洋の音楽には詳しくありませんが…素敵でしたよ」
「あるじさま、きれいでした」
ああ、そうか。
私はこんな単純な事を忘れてしまっていた。
音楽は人を笑顔にする。
幸せにしてくれる手段だった。
沢山の人とも繋がることができるんだ。
聞いてくれる人がいるから私達は音楽を奏でる事ができる。
こんな単純な事を忘れていたなんて。
「主、どうして泣いているんだい?」
「えっ…」
泣いている?
頬から落ちる雫に触れてようやく気付いた。
私は泣いていた。
「どこかいたいのですか」
「いいえ、悲しいから泣いているんじゃない」
そう、悲しいからじゃないの。
私はあの日、すべて無くしたと思ったの。
居場所も、好きな人も、音楽も。
友達も。
でも違った。
音楽を無くしたわけじゃない。
こんなに近くにあるのに。
「私…音楽がしたい。音楽を捨てたくない」
「主…」
「私には生きる事と同じぐらい大切で、音楽はあの人との唯一の繋がりだったの」
私が愛したあの人と絆を結んでくれた唯一のもの。
ごめんなさい百ちゃん。
万の事を悪く行ってしまったけど解っていたの。
私に何の相談もなくいなくなったのは、万も傷ついていた。
苦しくて悲しくて仕方なくて。
それでも最善の道を探して千を自由にするために。
私を置いて行ったのだって私を捨てたくて捨てたんじゃない。
でも…
「辛くて、悔しかった」
「うん…」
「何の相談もなく勝手にいなくなって。私はその程度の存在なんだって思うと…悲しくて」
本当は馬鹿が就つく程のお人好しで他人を庇ってぽっくり逝きそうな人だもの。
だから余計にむかついた。
自己犠牲なんてして誰が喜ぶのか。
万を大事にしないことは万を愛している人を悲しませる行為なのに。
私が言えた義理じゃないけど。