第2章 第二章迷える子羊
翌日ホテルに移り、大所帯だったので広めの部屋を二つ取った。
会員制のホテルで一般人は入れないので安全だった。
お茶をしにラウンジに向かう途中。
「あら?」
ラジオ放送が流れていた。
有線放送で音楽流れ、聞き覚えのある曲だった。
これは――。
私が作詞作曲したものだった。
「あら?最近よく聞くわね」
「デビューしてばかりのアイドルらしいわね…たしか」
他のお客さんも立ち止まり聞き入った。
「Re:vale」
私の知っているのとは違うけど悪くない。
ううん、素敵だと思った。
千の歌は勿論だけど、百ちゃんの声質が千と相性がいい。
「主、どうしたの」
「えっ?」
「立ち止まって…」
膝丸が場所を取りに行く間、髭切が私の傍に付き添っていた。
「あっ…ううん。ただ立派なラウンジだと思って…グランドピアノまで置いてあるし」
「これ西洋の楽器だよね?主、ピアノ大好きだもんね」
そんなことまでも知っていたの?
私は音楽はしていたけどピアノを弾いていた事を離したことはないのに。
それ以前に私は髭切と何処で会ったか覚えていない。
思い出せなかったけど、無理に思い出さなくていいと言われてしまった。
「よろしければお弾きになられますか?」
「え…」
「いいじゃない、弾いてみれば」
ピアノはあの日から弾いていない。
指が訛っているんじゃないか不安がよ過ってしまう。
それに――。
弾くのが怖い。
あの日から私はピアノが弾けなくなった。
「僕は聞きたいな」
「髭切…」
「無理にとは言わないけどね」
あくまで強制はしない髭切。
「下手だけど」
「いいよ」
弾けるかどうか解らない。
恐々とだけどゆっくりと足を進め鍵盤に触れる。
ドクン…ドクン。
弾こうとすると目の前が真っ暗になるだろうか。
そっと触れると。
傍で髭切が支えてくれた。
まるで大丈夫だと言われているかのようで安心できた。
大丈夫。
怖くない。
だって今は傍に髭切がいる。
彼が私の音楽を望むなら弾いてもいいかもしれない。
ううん、望む人がいるなら弾きたい!