第11章 紅の出張
「こんな良い部屋泊まっていいの!?」
「大浴場じゃさすがに変装もできないし、できれば叶音の事だって人の目に触れさせるのは最小限に抑えたいんだ。だからあれこれ言い訳をみつけて許可をもらってきたのさ」
と言うことは、本当は許可が下りなかったのかな…
お堅い上を納得させるさせるだなんて、さすが零としか言い様がないけど…
「まさかこの部屋をもぎ取る為に徹夜だったんじゃないよね?」
「……さァ?」
どうかな、と濁す零は早速温泉に入る支度をしていて、零が入るならオレも入ろうかなと重い身体をなんとか起こした
バスタオルや浴衣は零が一緒に棚から出してくれていて、あとは服を脱いで入るだけ
他に人がいないから何も気にすることなく入れるのはやっぱり最高である
零より後に動いたオレの方が先に裸になり、「お先~♪」と身体に掛け湯をして温泉に身体をゆっくり沈めた
「ハア"ァァ~~~~」
肩まで入った所で、今日の疲れが一気に抜けていく様な開放感に長く息を吐き出した
「ぷっ…オヤジ…」
「れ、零だって入ればそうなるからっ!」
掛け湯を済ませた零に笑われた
そして、やっぱり熱いな、と言いながらゆっくり湯に入ってきた零は、オレの隣りまで湯の中を歩いて来た所で肩まで沈む
「ハァ“ァァ~~~~」
「ほらっ!零だってオヤジじゃん!」
「仕方ないさ、もうすぐ30なんだから」
「じゃあオレだってこんなだけど同じだもんね!」
そう言ってハッとした
零と同じ歳なのに今は違う、そういうニュアンスの発言をすると、零は決まって悲しい目をするんだ
案の定零のからの言葉はなくなり、肩を寄せられ、湯に浸かりながら素肌と素肌が触れ合った
顔を見られない様にそうしているのかもしれない…
いつもの様に「すまない」なんて言われたくなくて何か会話をみつけようとすると、瞬時に脳裏を過ぎったのは同期の事だった
きっと部下に萩の名前を出されたからだと思う
「もしさ、班長も陣平ちゃんも萩もヒロも生きてたら…オレのこの状況をどう受け止めてくれるかな…」
オレ達の間でこんなふうに同期の話をするのはいつの間にかなくなってたから、零はちょっと驚いた様にこっちを見ている
「あ、ごめん。部下から萩の名前聞いたら、つい…」
安易に出す名前じゃない、どちらかが言った訳ではないが、暗黙の了解でそうなっていたのに…