第11章 紅の出張
「叶音さん元気でいらっしゃるんですね!」
良かったと微笑む部下二人に自分もニッと口元が上がった
目の前の零は「部下に甘すぎる」と言いたげにこっちを見てるけど、残りの八ツ橋を口に運んで気付かないフリをしておいた
そして全員が甘味をほぼ食べ終えようとしてる頃、風見の携帯に上からの連絡が入りオレ達はこのまま清水寺を後にすることになった
模擬訓練は次の観光場所である伏見稲荷神社から再開し、清水寺でのことを受け体制を変えた警備の元で観光する
周囲にバラバラに配置されていた私服警官はオレ達2人を囲むような配置に変更されていて、ご要人へ誰も近付けないようになっている
私服警官達は待機中の説明で「ご要人にできるだけ近付いて、尚且つ観光を阻害しないよう努めるように」なんて言われていて、「了解!」と意気込むベテランと、「了解!…とは言ったものの…」と困った様子の若手の反応に差が見えて、心の中で頑張れ~!なんて応援をしてしまう自分がいた
観光の方はというと、オレ達二人はガッツリとガードされていることもあって一般の人達に「何だろう、芸能人かな?」と珍しそうに見られていた
写真を撮られそうになると私服警官達がオレ達とカメラの間にスッと割って入ってくれていたが、動画だったらどうしようもない…どうか拡散されませんように…
と、こんな感じで警備にガッツリ囲まれながらの観光になってしまうと嫌でも周りからの目が気になってしまうから、ご要人も警備を外して欲しいと言ったのかもしれないな
正直2ヶ所目は観光した気分にはなれなかった
鳥居の道をくぐって歩いたって周りは人、人、人…
警備をするっていっても程があるよ…なんて、人質にされてしまったオレのせいなんだろうけど…
「づがれ︎︎だぁー」
「ハハ…お疲れ様」
観光という名の模擬訓練を終えて夕方早めに旅館へと着いたオレは、鞄を降ろして早々に部屋の畳に大の字で寝そべった
隣りに座り込んだ零も「ふぅ…」とメガネやウィッグを外して一息付いている
「オレもう動けない」
「温泉は?」
「入りたいけどすぐは無理ぃ…」
「せっかく部屋に露天風呂が付いてるんだ、夕飯前に一度入って汗を流した方がいい」
なんとオレ達二人が泊まる旅館の部屋はVIPルームの1つで、部屋の奥の襖を開けるとそこに露天風呂が備わっていた