第16章 正体
ルシアン
「まずいな…。こいつは任せたぞ」
リアム
「分かりました!」
酷く取り乱すレティシアを見たルシアンはその場を2人に任せて彼女の元へ行こうとしたが、それよりも先に別の影が彼女の隣へ寄り添った
「レティシア…落ち着け。泣いている場合じゃない」
レティシア
「…っ…フェリックス…」
地面に座り込んでいるレティシアの肩に腕を回し、金の髪の間から覗く切れ長で気怠げなスカイブルーの瞳で彼女を見詰めるのは、シュヴァリエ家の現当主でレティシアの元婚約者…フェリックス·シュヴァリエだ。
突然の登場で驚きレティシアの涙が止まる
フェリックス
「君が落ち着けないのなら俺も手伝うから…ほら」
レティシア
「……わか、った」
レティシアの手の甲へフェリックスの大きな手が重ねられ、2人の手がジルヴァの傷に翳される
レティシア
「フィピ…テオ」
フェリックス
「ボイターク」
ジルヴァ
「ウゥ…」
2人の魔法によりジルヴァの傷は塞がり、荒かった呼吸も落ち着いた。その姿を見たレティシアは安堵し手袋を嵌め、小さくなったジルヴァを優しく抱き締める
レティシア
「ありがとう…ジル」
ジルヴァ
「にゃう…」
返事をする様にジルヴァが弱々しく鳴くとレティシアは優しく撫でてやるが、次にはリアムとノアに抑えられている男を睨み付ける
「失敗した…僕も化け物にされる。嫌だ…あんな化け物になりたくない、殺して…僕を殺してください!」
人獣になるのに怯える男の言葉にレティシアは吐きそうになる。
片腕に疲れて眠ってしまったジルヴァを優しく抱きながら、レティシアは必死に懇願する男の方へと近付く
リアム
「レティシア…駄目だぞ」
ノア
「そ、そうだよ…姫さん」
殺意に濁る紫の瞳を見た2人は抑えながらも慌てて次の行動を止める。
「お願いします!殺してください…!」
レティシア
「そんなに望むのなら…首を刎てやろう」
ノア
「姫さん…!」
リアム
「レティシア、駄目だやめろ!」
レティシア
「フィピテオ」
魔法で剣を創り出したレティシアに2人は青ざめる。
今の彼女は冷静に見えて普段通りの冷静さがない、2人は慌てて男を起こそうとするも、男がそれに抗う