第16章 正体
レティシア
「何故…殺した」
レティシアが何とか声を吐き出すが、男はその問に何でもないように答える
「捕まっては困りますからね。…そうなる前に始末しただけです」
リアム
「巫山戯んな…人の命、軽く見やがって」
「馬鹿言わないでください。彼は、もう人ではないじゃないですか」
ふっと鼻で笑う男の言葉にリアムは拳を握る。
ルシアン
「お前は…何を知ってるんだ」
「残念ながら、僕は捨て駒なんで何も聞かされていません」
ご期待に添えず、と嫌味ったらしく笑う男はメガネのブリッジを中指で上げると今度は銃口をレティシアへ向けた
「ですが…命令は果たさせていただきます」
─バンッ
瞬時にレティシアは向かってきた銃弾を避けるが…もう一丁銃を隠し持っていたらしく、その避けた先に向かって発砲する
レティシア
「しまっ…!」
魔法も間に合わない。男を取り抑えようと走るルシアン達も…。
レティシアは真っ直ぐに心臓目掛けて飛んでくる弾を、せめて致命傷にならない場所に当てようと身体を動かそうとするが─…
ジルヴァ
「グルァァッ…!」
レティシア
「え……?」
慌てて降りてきたジルヴァがレティシアを庇い、左前脚を撃たれてしまったのだ。
普通であれば人の拳銃が大型魔獣に怪我を負わせ痛みを与える事は無い
「ぐっ…!」
魔獣が庇った事に流石に驚いた男が呆然としている所をルシアン達が抑え込む。
痛みに震えながらも羽で包み込んだレティシアが無事なのを見るとジルヴァは安心したのか倒れてしまった
レティシア
「ジル?…何で…しっかりしろ、今治してやるから…っ」
慌ててレティシアは白い毛を赤く染める左前脚に手を翳すが、上手く前が見えない
レティシア
「お願い…ジルまで私の傍から居なくならないで!お願い…っ…1人にしないで…ジルヴァ…っ」
次から次へと溢れてくる涙のせいでレティシアの視界は歪み上手く傷が見えず、焦りからか彼女の口調が幼い頃のものに戻る。
ユリスも助けられなかった、ジルヴァまで居なくなったらどうしよう…その気持ちが彼女を更に焦らせる。