第2章 【羽京】東の姫君とお見合い
「えぇ?…やから、無理やて。西園寺のお家乗っ取りとか。
……あんなあ、確かにウチの家の取り柄は頭脳やで?今じゃ社会の仕事の大半が肉体労働からそっちに変わっとる。ウチの天下やなんやいうんは勝手に思っとればええけど…
けんどなあ、向こうはんの歴史や培ってきたモンやら価値観を舐めてかかってたらアカン。やないと、今日の私みたいにえらい目にあうで」
驚く程低くドスの効いた声を出すと、桜子が強制的にブツッと電話を切る。
「クッソーーー!!!!はよ潰れてまえーーーー!!」
ーースマホが川にぼちゃん、と落ちる音がした。正確には、桜子が投げたのだが。
フーっ、フーっと息をしていたかと思うと、彼女は顔を上げた。
「ほんま、もうイヤや…」涙混じりのボソリとした呟きが、羽京の心を貫いた。
彼女はーー恐らく、身を呈して守ってくれたのだ。
東宮院家の陰謀から。そのまま橋に背中を預けてずるり、と座り込む。
泣いてる女の子を、放っては置けない。
羽京は意を決して桜子につかつかと立ち寄った。
「…………アンタ…」「…まだ一つ。行ってない場所、あったよね?」
行こう。そう言って伸ばした手を、そういえばそうやったね、と笑って桜子が掴んだ。