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dcst 夢小説 短編まとめ

第2章 【羽京】東の姫君とお見合い


と、夜になるまでは思っていた。

「ーーえ」
「……重ねて申し上げます。申し訳ありません。
今回のお話…私の方から破談を申し出ます」

そう言って彼女が頭を下げた。
何か自分がやらかし……た覚えしかない。

「…そうですか。今日は本当にありがとうございました」「…勘違いせんといて下さい」ボソリ。桜子が呟く。

え。突然の関西弁。頭を下げたまま、彼女が続ける。
「羽京さんには、なんにも悪い所ありまへん。
私ん家が、悪いこと企んどるだけで。羽京さんがも少し悪いお人やったら別に巻き込んでも正味良かった。…けんど、あんたはええ人過ぎる…私にはとても、釣り合わんのです」

そう言って、桜子がこれまで見た事のないーー哀愁漂う笑みを浮かべた。
「…じゃあ。お世話になりました」「あ、待っ…」

追いかけなきゃ。彼女は恐らく本当は言ってはいけない家の事情を言ってくれた。
もしそうなら。
ーー自分も、誠意を見せたい。

******

「うん……父さんの言う通り、ええ人やったで。……ちょっと。私の言葉、信じられへんの?なんやそれ、傷付くわ~」

いた。桜子は橋の上の欄干に腕を置き、右手でスマホを持って電話中だ。相手に気付かれず、音が拾える範囲内に潜む。まさかこんな所で自分の耳を使う日が来るとは。

「籠絡、ねえ…。私もやれると思ってたんやけど…アカンで、彼。私には無理やったわ。

性格は典型的なええ人なんやけど、『耳』が良すぎる。あん人の耳の前やと、思うとる事のウソかホンマか、思惑まで拾えてまう。
何か言えば言うほど、疑われてまうからロクな事口に出来へん。息が苦しゅうて仕方ないわ。

父さんの言うような西園寺の家をどうこう、なんてのはまあ無理な話やな。好きに出来る操り人形じゃあ無いで、彼。」ウチには手が余るわ、と言う桜子。

ーー嘘である。自分は確かに僅かなノイズ位は拾えるが、それで相手の心理分析をしたりは出来ない。

大袈裟だし、籠絡云々に関してはーー
普通に、彼女に好感を抱いてしまっている。ほんのり顔を赤らめつつ、続きを聴く。
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