第2章 【羽京】東の姫君とお見合い
一度海に沈めば長いので、こちらが休みの日に合わせて向こうからやってくるというのだ。お付きの人は居ない。しかも服装は気にせず気軽に私服を来てこい、というのだから逆にやりづらい。
スーツとか言ってくれた方がまだマシだ。
羽京は何とか鬱々とした精神にフタを閉じて、その日をやり過ごした。
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お見合いという名のデート当日。
場所は横浜指定だった。向こうが『横浜の街並みを見てみたい』というものだった。関西から来てくれる上にこちらは横須賀基地から電車で行ける範囲内なので了承した。
緊張しながら待っていた。結局、顔写真は無し。
先輩の言ってた記事をネットで探したが、あくまでニュースのひと記事で顔写真は無かった。
だが流石に『東宮院 桜子』という名前や、着てくる服など簡単な外見の特徴は待ち合わせ用に教えて貰った。
着てくるのは白いワンピースに髪型は黒髪ロングのストレートらしい。そんな如何にもなのを着れる辺りは流石東宮院家の姫様といったところか。
ざわ。駅の改札口で帽子を目深に被り、待っていると周囲が急にざわめきだした。
綺麗な子…お姫様みたい…とボソボソ言う声を耳が拾った。どうやら本当にお姫様の様な人間らしい。
カツカツカツ…、と目標人物の足音がやって来る。緊張の余り、視線が上げられない。
「あの」鈴の鳴る様な声がした。
ふわりと石鹸の匂いがする。ここまで来ては無視出来ない。観念して視線を上げる。
「今日お会いする予定の、羽京さんで合っていますか?私、『東宮院桜子』と申します」
そこにはふんわりと笑う美少女が居た。人形の様に綺麗に整った顔に、真っ白な7分丈のワンピース。上から薄い緑色のカーディガンを羽織り、白いポーチを斜めに上からかけている。ぱっつん前髪に、艶のある黒髪が腰の少し上位まで伸びていた。
「あ…はい。お世話になります、西園寺羽京です」ぺこり、と頭を下げる。