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第2章 【羽京】東の姫君とお見合い
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「え?見合いすんの?羽京」
テレビを見ていた同室の先輩がぐるりと振り向く。
「はい」「俺らと出かけんの断るから何かと思ったらお見合いって…!おまっ…お見合いって…!」流石いいとこの坊ちゃんは違うな、と先輩が笑う。
するともう1人の先輩ーーこの部屋で最年長の先輩が諌めるように言った。
「あまり笑うもんじゃない」「…あ、そっか。急によくわかんねー人と会うもんな。ごめん、羽京」
助かった、と羽京は内心でため息をつく。超体育会系の自衛隊では、単純に年功序列が適用される。その為、先輩の助け舟は有難かった。
「…その人、顔写真とかは見たのか」
訂正。助け舟じゃなくて泥舟に乗ってたの間違いだった。
普段物静かな先輩まで乗ってくるのは…まあまず、皆一様に色恋沙汰に疎いのと、『見合い』なんて普通は聞かない爆弾ワードのせいだろう。
これから根掘り葉掘り聞かれるのは間違いない。羽京は仕方なく腹を括った。
「顔写真はまだですね。祖父が見せてくれなくて」
「へえ、ガチの初対面じゃん。すげー!どこの家の人?さぞかしイイトコのお姫様なんだろ?」テレビを見ていた2番目に歴の長い先輩が身を乗り出す。
「東宮院家の人ですね」「東宮院……戦国時代から続く知将の家だな。有名な学者達を輩出してきた学問の家、って所か」何故か最年長の先輩が詳しい。
「へー!あそこなら俺も聞いた!!なんか日本人の女の子で飛び級した美人の天才少女?がそんな名前だった気がする!」
ミーハーでその手の話なら詳しい先輩も食いつく。正しくその『天才少女』が今回の見合い相手なのだがーー
「…じゃあ、その天才少女が相手か。断るのも苦労するな」「え?なんで?断る理由無いじゃん」
2番目の先輩がキョトンとする。
「……俺たちは基本海の中だ。結婚しても、会うのは難しい」先輩の冷静な指摘が入った。そう、普通の人ならまず基本海の中にいる自身の様な人間は選びづらい…それもあるし、自身の聴力を活かせる分野としてソナーマンの仕事を選んだのだが。
「まあ天才の考える事なんて分からないっすし!自分の事に時間使えるとか思ってんじゃないすかね」珍しく先輩その2が正論っぽい事を言う。
そうなのだ。普通は選ばない。
ーー相手がおかしく無ければ。不安に思いつつ、羽京は来たる見合いの日をチラリと壁にかかったカレンダーで確認した。
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