第4章 再び出会った僕たちは
ピンポーン
「ああ、蛍くんいらっしゃい!」
「オジャマシマス」
おばさんに案内されて、山口の部屋を訪れる。
「ツッキーいらっしゃい!」
山口は僕を招き入れると、同時にキッチンに飲み物を取りに行った。
壁を見ると、黒い服…烏野の制服がかけてあった。
あと、1週間ほどでこれを毎日のように着ることになる。
「お待たせ!ツッキー!!」
山口が麦茶のボトルとコップを持って帰ってくる。
山口家に保管されてる僕用の縁が黄色いグラスと山口用の縁が黄緑のそれは、もはや定番だ。
おばさんがこう言うの好きだから、気がつくと山口家に僕用のものが増えて行った。この歳になると、なんだかむず痒いものがある。
「そんなに待ってないケド」
素直にお礼が言えないお年頃である。
バフンとベットの縁に腰掛けると、丁度目線が窓の方を向く。
夜と夕方の境目のその景色の中に、紫に染まった僕の家のベランダが見えた。
ふと思い出して、山口に問うてみる。
「山口、この間なに大声出してたのさ。近所迷惑なんだけど」
ビクッとした山口は注ぎ途中の麦茶を盛大に溢してしまった。
明らかに動揺した様子の山口に眉を跳ね上げる。
「そんな、動揺するような内容だったの?」
「あ…イヤ、そんなことは」
目を白黒させて、麦茶を拭きながら答える山口は耳を真っ赤に染めてしどろもどろな様子だ。
「ハッキリ話しなよ」
「母さんが調子に乗って良い加減なこと言うから…」
「ハナシの内容がみえないんだけど」
「…居候じゃなくて、僕と結婚したら“本当の娘”になるのにって」
「へぇ…そりゃ、突端なハナシだ」
自分でも、声が低くなるのが分かった。
ちょっと前までは、幼馴染との再会に胸を膨らませていただけに水を注された気分だ。
何言ってくれてんのさ、おばさん。そんなこと話したら、いくらこの純真な幼馴染でも違った部分でを意識してしまうだろう。
ましてや、同じ屋根の下での共同生活というシチュエーション。
…ナンデ、山口の家に住むんだ?
家も広さはあるし、兄貴の部屋も空いてるし、家族との関係性も同じくらいの距離感だったはずなのに…。
ああ、余計な思考だ。
そんなのは麦茶と一緒に飲み下してしまおう。