第16章 【エピローグ】奇跡の花
「二人とも。お帰り」
「「あ」」
羽京の寝室へ戻ると、司が待ち構えていた。
帝国人の気配は音で察知して、全てかわせる。
でも、流石に部屋で待ち構えている『霊長類最強の高校生』には太刀打ち出来ないし、一度濡れてしまった服を着替えない訳にもいかなかった。
「うん…結婚式でも、したのかな」
二人が固まる。図星だからだ。
葵の方は未だにウェディングドレスの上からポンチョを着ている上に、手を繋いでいる。昨日までは無かった変化で、バレるのは必然だろう。
「そうか。……うん。二人とも、おめでとう」
真っ直ぐにお祝いの言葉をかけられる。二人が顔を上げると…いつもよりもより一層穏やかな顔で笑いかける。
「あはは、ありがとう、司」「司君…。ありがとうございます…」照れながらお礼を言う。
「…君達の事だ。夕方になっても行方不明だったのは……そうだね、海でも行ってたのかな」
潮の匂いで判別したのだろう。
「心配しなくても、君達二人には今日から休暇、って事で俺から指示を出してあるよ」
「「えっ」」
二人して驚く。
「二人ともいつも頑張ってるからね。昨日のライブの疲れもあるだろうし。…今日はゆっくり休んでおくといい」
そう言って去ろうとする司。
「ま、待って下さい司君!!」葵が呼び止める。これには羽京も司も驚いた。
焦りつつ彼女は、髪の毛に刺さっていた二輪の花のうちの一本ーー青い薔薇を差し出した。
「これ……いつか司君の大事な人に」
「……でも、これは君のドレスの一部だ」
悪いがこれは貰えないーーーと断りかける司に、彼女が笑いかける。
「ーーずっと不思議だったんです。司君は、既得権益者を嫌うのに、3700年前の現代ではお金を稼ぎまくってました。ーーー違和感があるんです」
その言葉に、羽京もハッとする。……確かに、既得権益者を嫌うのにお金を稼いでいた。一体、何のために?
「ーーこれ。持ってると、ご利益ありますよ。」
大事な人に、出会えましたから。そう葵が笑う。
青い薔薇の花言葉はーーかつては『不可能』『存在しないもの』だった。
でも青い薔薇の花言葉は、かつて不可能だったその存在の精製により変わった。
今の花言葉はーー
《夢が叶う》《神の祝福》
「ーーうん。じゃあ、頂いておこうかな」ありがとうーー
そう司が笑ってみせた。