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僕と彼女の声帯心理戦争

第15章 【第3章】サヨナラの可能性


「……ここは……」

司帝国内にある、とある湖のほとりに二人は来ていた。
わー綺麗、と本来の目的は何処へやら、彼女がそのすらりとした足をぴちゃ、と浸からせる。

白銀の髪が緩やかに風に靡き、ポンチョの下からは白いウェディングドレス。まるで、水の精が遊んでいるかの様だ。

浅い所で両足を浸からせると、くるり、と彼女がこちらを向いた。
「ーー私は歌手なので……これでお返事にしますね」
そう微笑む。羽京も木陰に座り込むと、うん、と返事をした。



ーー聞き慣れた彼女の息を吸う音。

『Equation×**/椎名もた』

その曲は、突然訪れるサヨナラの可能性の数式を探す歌だった。もう二度と、偶然出逢った人と偶然別れる事はしたくない。
突然のサヨナラを心の底から恐れる少女ーー

ーーそれは目の前に佇む葵の姿に重なった。

(そうか……僕は)

この姿が見たかった。見たかったんだ。
壮大な愛を一方的にでも、悲しい愛の歌でもなんでもない、彼女が彼女自身の幸せを喜ぶ歌が。等身大の、大袈裟でも何でもない、弱虫で泣き虫な彼女の歌声が。



【ーーーーずっと、この音が聴きたかった】


曲は、最後にありとあらゆる計算の末に『 i 』が生まれる所で終わった。

へへ、と歌っていた彼女がくるりとこちらを見る。

「好きだよ………羽京君。
いつも思った事言えなくてーーごめんね?」
えへへ、と照れくさそうに笑う彼女を追って、靴を脱ぐと湖に入った。

「えっ、羽京君…?!ここ、冷たいですよ」
「あはは、そうだね」ギュッと彼女を抱き締めた。

「わ……!?」彼女が驚く。
「大丈夫だよ、こうしてればあったかいから」
「……私の方は大丈夫じゃないんですが…」そう緊張でプルプルしている彼女の頭を撫でる。

「……ねえ。君との戦争は、僕の勝ちだよね」
「……あ……」
びくり。彼女が身動きした。


ーー彼女の嘘吐きの声帯と、僕の超越した聴力。
彼女の心を読み切るどころか、手にした僕はーー


監視から外れる、という約束を思い出した彼女が、しゅーんと分かりやすく項垂れた。
「……負けちゃいましたね…」へへ、と悲しそうに笑う彼女。
……どうやら彼女は辛い時に、無理やり笑って誤魔化す癖がある様だ。
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