第5章 夢、あるいは救難信号
やっと、前田が演練に参加していた理由がわかった。
本人が事情を説明した上で、強く参加を希望したのだ。
あの審神者も断れなかったし、事情を知らないにせよ(前田の話しぶりは、明かしたのは審神者にだけのようだった)兄弟も止められなかったのだろう。
夢をわたる。不思議な話だが、刀剣男士は神の末席に名を連ねる存在だ。ありえない話ではない。
山姥切国広は直接会って話すことができない状況だったため、夢をわたってコンタクトをとってきた。
周波数を調節してチャンネルを合わせるように、何度か前田と夢をつなぐうちに正しい周波数を捕まえて、チャンネルが合った。
その結果、遠い声でなく、前田の前に現れることができた。こんなところだろうか。
「俺と会わせたその目的はなんなんだろうな」
呟くと、前田は一層顔を硬くした。涙の跡が残る目元に、緊張でぎゅっと力が入る。
その変化に、漠然と嫌な予感がした。
前田は、抱えきれない感情を分解していくように、途切れ途切れに言葉を続ける。
「昨日、また夢を見ました。山姥切さんを見つけたのは、保管室でした」
「保管室……」
そこは、玉鋼などの資源や、ドロップしてまだ顕現していない刀剣を保管する場所だ。普段は物置と化している。
ここで行われる作業といえば、資源の出し入れと、顕現していない刀剣を資源化するために刀解することくらいか――
と思い至って、まさかと前田の顔を見る。
前田も、鶯丸をまっすぐ見返していた。
黒い瞳孔が、微かに震えていた。
「山姥切さんが姿を現して、僕になにかを言ったのはこれが最初で、もしかしたら最後かもしれません。山姥切さんはーー」
鶯丸たちを囲んでいた薄青い四角形が、その輪郭をぶるぶる震わせ始めた。
ジジ、と電子的なノイズが輪郭の直線に混じる。
それは極微な放電現象のようで、清浄な青さには美しさすらあった。
時間が迫っているのだ。
結界が正常な機能を果たし終える、その最後のときが。
「『助けてくれ』、と」