第4章 邂逅への誘い
「要件について、私は先方からなにも聞いていません」
そう言って、審神者は一度口をつぐんだ。呼吸まで止めているかのように、静かに息をひそめている。
鶯丸には、彼が何を言おうとしているのか、聞くまでもなくわかってしまった。
「なにか悩んでいるのではないですか? 無理に聞き出そうとは思っていません。僕は審神者として未熟ですし、あなたを鍛刀してまだ数日です。信頼に足る人物だと思われているなどと、思い上がってはいません」
「そういうわけでは――」
「力にならせてはいただけませんか。僕が鶯丸にできることは、なにかありませんか」
震えそうになりながらも、力強く審神者が言った。
真摯で、一生懸命な目だった。
目を逸らして楽になってしまいたい、そんな衝動に駆られるような。まっすぐな感情が、真正面から鶯丸にぶつかってくる。
ここ数日、ずっと考えている。けれど、答えは一向に出てこない。鶯丸自身もよくわかっていないこの状況を、一体どう正確に伝えればいいのか。
「……」
「……」
お互い顔を合わせながら、沈黙してしまった。
時計の針は刻々と傾きを変えていく。
沈黙を拒絶と受けとりつつある審神者の顔に、落胆の影がさしこみ始める。
「……自分でも、まだ整理できていないんだ」
やっとこぼれたのは、そんな言葉だった。偽りない、そのままの言葉だ。
審神者はじっと、鶯丸の言葉に聞き入っている。固唾をのむ表情は、見れば、加州も似たような表情をしていた。
男士には個体差があり、審神者の性格や嗜好をいくらか反映しているーー。そんな説があるが、これは本当のことだなと改めて思った。
「ここが居心地の悪い本丸で、治めている審神者もいやな奴だったら、こんなに悩んでいないだろう」
「……」
審神者はどう反応していいのか、とっさにわからなくなっているようだった。
えっと、とクエスチョンマークを頭上にぴょこぴょこさせている。
鶯丸の口元に、フッと笑みがわいた。
「日程は? 俺はいつでもいい」
「あっ……は、はい! 先方とは打ち合わせてあるのですが、早い方がいいということで、この週のーー」