第15章 回転不変:無題のノート
:XX年前
「……これは?」
渡された小さな箱に目を落として、鶯丸は尋ねた。赤いリボンが結ばれた白い箱は、それなりの重量感がある。
「去年の今日、ここに来てくれたから。誕生日プレゼントだよ」
「ぷれぜんと」
主は頷いて、待ちの姿勢をとった。ここで開けてくれ、ということらしい。
鶯丸はリボンを解き、箱を開ける。
目に入ってきたのは、紙の緩衝材に包まれた湯のみだった。鶯丸の瞳や髪色によく似た、緑褐色をしている。淡い色で波のような模様が2か所入っており、高級感を漂わせていた。手に取ってみると、プラスチックとは全然違った重みが手のひらにかかる。繊細なざらつきのある手触りに、由緒ある伝統工芸品なのだろうと思った。
主はそわそわと落ち着かない様子で、上目遣いにこちらの反応を伺ってくる。鶯丸は微笑して、主を見つめ返した。
「ありがとう。とても嬉しい」
「ほんと?」
「本当だ。早速茶を淹れようか」
「あっ、ボクがやるよ!」
わたわたと主が席を立ったので、鶯丸は彼女に任せることにした。
主は、まるでフラスコや試験管を扱うような手つきで茶の準備をしていく。その姿がおかしくて、思わず吹き出しそうになる。まずい、これでは「なんで笑ってるのさ!?」と怒られてしまう。
「鶯丸の淹れてくれるお茶がすごく美味しいから、その秘密はなんだろうって実は研究を重ねてたんだ」
「すごいな。いつの間に」
「自分ではなんだと思う?」
「そうだな……主を大事に思う気持ち、かな」
「……へ?」
「主においしく飲んでもらいたい、そう思いながらいつも淹れている。それが美味しさの秘密だろう」
「そ――そそそうじゃなくて! 淹れ方とか分量のことだってば!」
顔を真っ赤にしてあわあわ否定する主が可愛らしくて、ますます頬が緩んでしまう。