第10章 遠い残響に耳をすませて
遠くで俺を呼ぶ声がした。
初めに聞こえてきたのは、兄弟たちの声だった。
「兄弟!」
「骨喰!」
「骨喰兄さん!」
聞き慣れた、愛おしい人たちの声が次々に耳に飛び込んでくる。
その声は、だんだんと近く、はっきりと聞こえるようになっていった。
呼んでる。
皆が待ってる。
早く行かないと。
「骨喰」
ずっと聞きたかった声が、そこだけ解像度が上がったようにはっきりと耳に入ってきた。
目元が熱を帯び、嗚咽が漏れそうになる。
日だまりのようにあたたかなそれに、振り返るまでもなかった。
その声は、ほかでもない“主”の――
「みんな……っ!」
涙で視界が歪む。
世界がきらきらとまたたいていた。
本丸のみんなが、主が、笑って手を振っていた。
俺は皆がいる方へ駆け出す。
もう左腕は、痛くなかった。