第3章 犬、時々虎。
.
全身が痛い。
やっぱり真希さんの身のこなしは凄い。
あんなに動けない。
さっきまで全然気が付かなかったけど
至る所にアザが出来ていた。
痛いわけだ。
ま、昨日よりも動けてたと思う。
成長していればそれでいいのです。
「雪奈〜!今からヒマ?」
「あ………悠仁」
「お、名前で呼ばれるの嬉しい!
どう?時間ありそう?」
「全身が痛いからもう帰って寝ようかと…」
「マジか!それは残念だけど
明日もあるしゆっくり休んだ方がいいよ!」
「うん、ありがとう」
「あ、雪奈」
「ん?な————」
名前を呼ばれた瞬間、キスをされた。
一瞬過ぎて良くわからなかった。
悠仁の頬は少し赤いけど、目が鋭かった。
「んじゃ、また明日な!」
そう言って去っていった。
いつもなら犬なのに、たまに見せる
あの顔、なんなんだろう。
照れてるんだろうけど、余裕も含んでる。
心臓の音がうるさい。絶対顔も赤い。
「………全然、犬じゃないじゃない」
悔しい様な、嬉しい様な。
変な感情で絞り出した言葉はこれだけだった。
end