第9章 ifの話(PandoraHearts/エリオット)
「ん…」
奥の部屋から、聞こえた微かな呻き声。
それは人を特定するにはとても難しいほどに僅かなものではあったのだが、の頭には何故か"彼"の姿がよぎっていた。
「っ………」
即座に、奥へ歩を進める。
?と、彼女の行動にオズやレイムが呼び掛けるが、それに構っていられない。
何故この世にいないはずの"彼"の姿が浮かんだのか、何故こんなにもあの部屋、声にひかれているのか。
答えなど全くわからないのだが、とにかく思考の何かが、早く、と急かすのだ。
はそのままドアに手をかけ、戸惑うことなく開け放つ。
……部屋の中の光景には、その場の全員、唖然とするしかなかった。
「う、そ」
今にも泣きそうな顔で、はそう呟きながらよろよろと部屋の中に足を踏み込む。
部屋には質素なベッドが一つ。
そしてそこには、彼女が先程から頭に思い浮かべていた、"彼"がいた。
「エリ、オット」
ナイトレイ家嫡男であり、ハンプティダンプティの違法契約者。
その能力で記憶を改竄されていた自分の罪に気付き、悔やみ、そしてハンプティダンプティの存在を完全に否定し、死んだ、はずだった。
「なんで…エリオットがいるの………?」
覚束ない足取りのまま、はベッドに駆け寄る。
突然ドアが開いたことに驚きを浮かべていたエリオットだったが、久々に見たの顔に、いとおしそうに笑みを浮かべた。
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