第9章 婚約者は誰?
~当主の話。
悟くんに頂いたお着物に初めて袖を通したのは、ちょうどお盆に分家が集まって食事をする例の行事だったんだけど、あたしが奥様の部屋で着付けを終えた頃、当主が迎えに来られた。
「準備の方はどうだ?」
「ちょうど終わったところ。今、なぎちゃんちゃんと出ますね」
当主がこうやって奥様の部屋まで呼びにくることはあまりない。前回、支度がぎりぎりだったから奥様を呼びにこられたのかもしれない。部屋を出るとそこには、当主と一緒に悟くんもいて、二人で迎えに来たような感じだった。
悟くんを見て驚いた。悟くんの和服は、羽織も帯も黒地に金の刺繍がほどこされていて、まるでそれは……あたしの着物と色合わせしたかのような柄だ。
お揃い? まさかあの時、奥様は冗談を言ったんじゃなくほんとに仕立てたの? 五条の親戚が集まるようなこんな大きな行事でどうしてこんな目立つことを!
当主はあたしの着物を見たら今すぐ別の着物に着替えるように命ずるんじゃないかと思った。だけど、決してお揃いに気付いてないわけじゃないと思うけど何も言わない。言わないどころか、あたしと悟くんに並べって言う。
当主がお付きの人に命じて、あたしは悟くんと並んで写真を撮られた。もちろんこんなの初めて。
どうしてって聞きたいけど、奥様にしても当主にしてもそんな風に行動の意図を尋ねる事を使用人はあまりしない。長年ここにいるあたしも同じだ。着物が新しくなったからその記念だろうと思うことにはしたけど、それでも変だとは思う。
そして「じゃそろそろ行こうか」という当主の声を先頭にあたしたちは本家の玄関に向かって廊下を歩いた。
当主・奥様・悟くん・あたし の順で縦に並んで玄関に向かう。足袋がすれる音が廊下に厳かに響き渡る。なんでこんな風に五条家と並んで歩いているんだろう。
やっぱり、あたしは、悟くんの婚約者なのかな?って思ってしまう。