第4章 消えた老舗の和菓子
「最初に陳列されるのは各々10箱ずつ。だから細工をするのは『チョコ味』10箱だけでいい。掌に仕込んだ米油の染みた綿でシールをなぞりシールを剥がす。そこに新たに『小倉味』のシールを張り付ける。2人で10箱。最初に陳列していた『小倉』10箱は補充用の引き出しへ。張り替えた『小倉』10箱をそこへずらす。つまりこの店に、いや、5軒全ての店に最初から『チョコ味』は無かったんです」
「最初から無かった」の言葉に全員が驚く。その時、どこかへ行ってた車折刑事が走って戻ってきた。
「毛利探偵!」
戻ってきた車折刑事に「車折はん」「車折さん」と綾警部と同時に呼んでしまう。どことなくシマリスちゃんも呼んでいるように見える。
「毛利探偵のおっしゃってた通り『梅はら』の作業場の冷蔵庫に今日使う予定だったチョコレートがそのまま残ってました!」
チョコレートは使ってしまい今日使用分はもうないと職人さんが言っていたが、実際は使われてなかったらしい。と言うことは。
「つまり今日は最初から『チョコ味』など作っていなかった。そんなことができるのは、菓子職人の皆さんだけです!」
そのことに驚き全員の視線が職人さんへ向く。職人さんは目を瞑り何かを堪えるように下を向いていた。
「どうしてそんなことを!」
園子ちゃんが追及するように問う。
「先代は『抹茶味』を本当に嫌ってました。まして『チョコレート味』なんて…!」
涙ながらに話す職人さん。蘭ちゃんは「そんなことで?」と再度問い質す。
「『そんなこと』なんかやない…!『そんなこと』なんかやないんや…!」
「だからこそ先代の命日には『チョコ味』はどうしても売りたくなかったんです…!けど、こんな大事になるなんて、すんまへんでした……!」
額が地面に着きそうなくらい深々と土下座をする職人さん。
言っていたように大事にするつもりはなかった様子。でも来た客が名探偵の毛利小五郎と京都府警の私達とゆうこともあって警察沙汰になってしまった。
先代の社長のときから技を磨き、職人として腕を振るってきたからこその行動であろう。先代の『小倉味』一筋と現社長の『抹茶味』や『チョコレート味』の新しい味への進展と挑戦。職人さん達の戸惑いは大きかったと思われる。