第1章 出逢ってしまったふたり

海に飛び込んで丸5日
やっとの思いで日本に着いた。

ラッキーなことに密航を手配していた船に拾われ、
長い船旅を経て5日後
今日の朝に無事東京近郊の漁港に到着した。

満身創痍な上、食事も最低限死なない程度にしか取っておらず、フラつく足で、都内まで歩いてきて昼間の喧騒の中にわたしはいた。

電話をしながら急足で歩くサラリーマン
恋人同士で手を繋いで歩く学生
ベビーカーを連れた女性
色んな人が、いつもの日常を送っている。

これからわたしの新しい人生がスタートする。
と言っても、戸籍を手に入れることが出来ていない今、
どうして生きていこうか真剣に考えないといけない。

海に飛び込んだから持っていた資産はゼロ。
日本への密入国のときにあらかじめ船に積んでいたトランクには、最低限の服と生活用品。
必要だろうと用意しておいた100万円の現金はあるが
数ヶ月で底を尽きるだろう。

とりあえず、まずは住むところを探して
それから戸籍を買わないと。


桜井サラはもう死んだことになってるんだから。

そんなことを思いながら、トランクを引きながら街を歩いた。


しばらく歩いていると、
道ゆく人がわたしのことを見ながらヒソヒソと何か話しているようだ。

ハッと肩に目をやると、あのとき撃たれた傷口から血が滴り落ち、白いシャツを真っ赤に濡らしていた。
傷口、応急処置で塞いだんだけどな…

その場で立ち止まり、止血するためにグッと圧迫すると
痛みが身体を通って頭にきた。


「痛っ」


痛みと同時に脳裏に焼き付いてるのが、
ジンの氷のような瞳。

あの目が、わたしを逃してくれないように思えて
ゾクっと背中に冷たいものが走った。

痛みと恐怖ではぁはぁと上がる息を整えていると、
後ろから誰かの声がした。



「大丈夫ですか？」