第1章 出逢ってしまったふたり

その思いだけ抱いて走り続け、
計画通りに海にかかる橋の柵の上へひょいっと登り下を見下ろした。

夜の海は真っ暗で、まるでわたしが生きてきた世界のようだ。

怖くない。
もしこれで死んでも、それはそれで運命だったと受け入れるだけ。　


この真っ暗な海の先に、眩しい幸せな人生があるのなら。


そう心に決めて、飛び込もうとしたそのとき、



「ジェーン！！」



聞き覚えのある声がわたしを呼んだ。

その声のする方へ振り返ると、
ウォッカの隣に、長身、銀色の長い髪に、黒いコート、ハットを被った男が、タバコを咥えながらこちらに銃口を向けている。



「ジン…」



そう、彼の名前を呼んだ瞬間、
ジンが向けた銃口から弾が飛び出し、
わたしの右肩を撃ち抜いた。


パァンッ


サイレンサー付きの銃声音がしたと同時に、肩が熱くなった。

パタパタと血がしぶいたその瞬間、握りしめていたメモリーカードはわたしの手からするりと抜け落ち、
同時にわたしの身体はゆっくりと後ろへ倒れていく。

霞む目の前には、ジンが冷たい瞳でこちらを見ているのが一瞬だけ映った。

何度もわたしの瞳を刺した、氷のような視線で。


そのまま真っ逆さまに海に落ちた。


ドボン…


大きい水音ともに、わたしの身体が言うことを聞かなくなる。

仕方ない。あのメモリーカードはないけど、これでわたしが死んだと見せかけることができただろう。

あとは、密航を手配した船に乗り込んで、
幸せを掴みにゆく。

沈みゆく暗い海の中で、そんなことを考えてた。