一緒に灯台の光を灯し続けよう(アイナナ大神万理夢)
第3章 行方不明の女子力
大神さんの料理は優しい味がした。自然と笑顔になる私に、大神さんも頬をゆるめ、穏やかな時間が流れた。
食後のお皿洗いだけは断固として譲る事が出来ず、させてもらった。これ以上女子力を下げるワケにはいかない。
コーヒーを入れてもらい、テーブルを挟んで大神さんと向き合う。
「何から話せばいいかな」
大神さんとRe:valeの関係、今の事務所で働くに至るまでを訥々と話してくれた。ユキさんへの遠慮のない様子も信頼があるから成り立つ事も理解出来たし、どんなに仕事がきつく大変でも社長への信頼の元、頑張ってきた事が分かった。
「アイドリッシュセブンの皆、社長を始めとした事務所の皆、さん。その他にも交流する事が無かったかもしれない人たちとこうして一緒に頑張る事が出来ている事に感謝してるんだ」
いつの間にか流れていた涙を、大神さんがテーブル越しに手のひらや指で拭ってくれた。
「後悔、してないんですか?今なら三人目のRe:valeとしてステージに立つ事だって…」
「してないよ。五年間、あの二人も今の関係になる為に相当の努力をしてきたし、僕も凄く頑張った。何よりも、今の仕事がアイドルをやるよりも好きなんだ」
大神さんの言葉に、目の下にクマを作りながらもテキパキと働く事務所の彼の姿が思い出された。社長の手は煩わせません!と常にアンテナを張り巡らせ、高いコミニュケーションの力でコネクションを築き上げ、売り込み、小鳥遊事務所を――IDOLiSH7をここまで押し上げた。
ただのアイドルではなく、そこまでの才能と努力と……この仕事への情熱が無ければ出来なかった事だろう。
「そうですね。大神さんの仕事への愛情、重すぎるくらいですもんね」
「え…、重、すぎる?俺、重たい?」
困惑と動揺を隠せない大神さんの姿に、笑いを誘われる。堪えようと下を向いていたが、堪えきれずに笑い声が漏れてしまう。
「さん…」
「ご、ごめんなさい…! 重すぎる、は言い過ぎでした…!」
「にしては笑いすぎだよね」
大神さんは、私の笑いがおさまるまで、優しい微笑みを浮かべて待ってくれていた。
「すみません…。…笑いすぎました…」
「愛情が重い発言の事じゃなくて、笑った事を謝るんだ?」
「そっちも! すみません!」
「冗談、冗談!」