インターハイの山頂をキミに[東堂VS荒北VS真波]
第3章 問うことなかれ、それは恋か?
新緑がさわやかに芽吹く、ある日の放課後だった。
部室に集まった自転車部の面々の前で、新開がチケットのような細長い紙を数枚取り出して見せた。
「ライブ?」
「ああ、アマチュアのバンドが順番にいくつか演奏するんだ。
オレの知り合いも出ててさ。
おめさんら、最近練習には人一倍熱心だが、どこか心がうわの空なことが多い気がしてな。
気晴らしに観に行ってみないか?
何かいい発見があるかもしれないぜ」
新開はにこやかに提案した。
「発見なんか道の上以外にはねェよ、甘ちゃんがァ……!
そんなヒマあるんだったら、ペダル回せ!だろ」
荒北はすぐさま却下したが、
「いいじゃないですか。
今日は本来部活は休みだし、オレ、行ってみたいです!
歌とか、聞いてみたい気分なんすよねー」
真波はノってきた。
「ふむ。興味がないわけではないが、オレが観客として行ったら、歌い手は歌うどころではなくなってしまうのではないか?
オレのこのあまりのオーラに萎縮してしまうかも知れん」
「おめさんのどこにそんなオーラがあるんだ?」
いつもの東堂にいつものようにつっこみが入った。
「東堂さんってほんとすごいですよねっ。
でも大丈夫だと思いますよ。
あーゆーのって舞台からは照明が眩しくて、客のほうはよく見えないはずです」
「それなら気兼ねすることなく聞けるな!
よし、気晴らしにいってやろうではないか」
俄然、ノリ気になった東堂に
「ったくどいつもこいつも……福チャンはふらふら行ったりしねェよな?
ストイックに練習だよな?
付き合うぜ。眠いケド」
荒北が最後の砦に頼ると
「筋肉には超回復という機能が備わっていてな……
二、三日強度の高い負荷をかけたら、一日休ませるべきなのだ。
だから今日は練習は休んでもよい休養日としてメニューを組んだ」
などという答えが返ってきた。
「決まりだな」
「わぁ、楽しみですね」
「福チャン……」
「最もオレは兄弟と備品を見に行く予定があるから、一緒にライブハウスとやらに行くことはできないがな」
「そりゃ残念だ、寿一。
また今度な」
「じゃあオレも行かねーヨ」
口では否定の言葉をつむぎながらも、荒北は気が付けばなぜか新開たちと共に、丘の上のライブハウスへと向かっていたのであった。