インターハイの山頂をキミに[東堂VS荒北VS真波]
第3章 問うことなかれ、それは恋か?
五人がライブハウスに到着した時は、まだ開演二〇分前だったが、中は客でパンパンだった。
「う――ん、こんなに混んでることもめずらしいんだが……」
新開がぼやいていると周りにいた客たちが勝手にざわめきだした。
「ハコガクだ。何部だろう?」
「そんなことより、トップバッターはマインドキャッチャーの歌姫、だぜ!」
「やべー、すげー楽しみなんだけどっ」
「けっ、マインドキャッチャーって何だヨ。
変な名前」
荒北が毒づいたとき、ふいに会場が暗くなり、ざわめいていた客たちは皆静かになった。
「――――迷いや悩みを持つことも怖い
明日はもういらないの 雪に埋めたいの――――」
女のコが最初のワンフレーズを歌いだした。
舞台はまだ暗くて見えなかったが。真波は強い衝撃に撃ち抜かれていた。
こ……この声、間違いない、あのコだ……
入学式の日……山頂にいた美しいコ……
間奏に入り、照明が付くと、舞台の中央に現れたのは、妖艶というにはあまりに清らかで、しかしそれ以外のどんな言葉でも表現しがたい、まさに美女だった。
薄い桃色の衣装に身を包んだ彼女はメロディをつむぎ続けた。
「――――絆を強める悪い夢だった
夜に散るはずだった 仲良くしたかった――――」
「まじかよ…………」
荒北は夏の日に出逢った泣いていた女と舞台の女が同じ人物だと分かった瞬間、この世に彼女と自分しかいないかのような、あの夏の日の感覚をまた味わっていた。
彼女の口から歌声が流れだし、そこに確かに生身の人間として実在することが解かっても、立ち尽くすしかできなかった。
指一本でも動かせば、探し求めていた彼女が昨日までのようにいなくなってしまいそうで、なかば恐ろしかったのだ。
「――――だから隣で笑って過ごした
致命傷を負うなんて気付きもしなかった――――」
しかし、また会えると信じてはいたが、それは砂上の楼閣のように不安定な予感でしかなかった。
予感が現実のものになったと実感するにつれ、徐々に荒北の指には力が入り、曲が終わるころにはその手を強く握りしめることができていた。
……オレのものにしてやンよ……チャン……!