インターハイの山頂をキミに[東堂VS荒北VS真波]
第9章 月と星を違えても、枯れない想いがふたつ
荒北は頭をかきながら、話しだした。
「橋本よォ、おめーのこといいっつってるのも、オレの周りに何人もいるぞ?
自転車しかねェオレなんかより、もっと同じ時間を共有できるヤツが……」
その女は首を振った。
「荒北くん!
あなたほど一途にがんばってるひとは確かにいないよ!
私ならあなたのロードを邪魔しない。
陰からずっと支えてあげられる。
ロードの、次でもいいの。
あなたが辛い時、くじけそうな時、それを少しもでも分かちあってくれたら、それほど嬉しいことはないの。」
荒北は目を細めて、女をじっと見据えた。
「そうだよな。
じゃあオレも本音で話す。
他人をすきになるってのは理不尽な想いに何度も何度も駆られなきゃならねェ。
オレなんか四六時中そうだ」
「え……荒北くん……いたんだ……すきなひと…………」
女は急にうつむいて泣きそうな表情になった。
「そんな想いをお前にさせちまったことは申し訳ねェと思う。
でもオレも、この想いだけは譲れねーんだ……」
は滑り台の裏で衝撃を受けていた。
あいつ、一丁前にすきな女いたのか……やばい、私あの告ったコのキズ付いた気持ち少し分かる……気がする……
すきな女ってハコガクの女のコ……かな……
「だから、お前とは付き合えねェよ。
悪ィな」
「わかった……」
そう震える声で返事した女は、荒北と目線を合わせた。
「聞いてもいい?
荒北くんがすきなひとって一体どんなひとなの?」
荒北は遠くを見る目をした。
「そいつはオレのことたぶんなーんとも思ってねェし、もし意識するようになったとしても、ロードにかまけてほったらかしにしてたら、カンタンにオレを捨てちまうであろう性悪な女だヨ。
オレは全身全霊でそれを繋ぎ止めたいと思っちまうんだ。
どうしてだろうな……辛い想いばっかするって分かりきってンのになァ……
あの髪に触れてオレだけのもんにしてェって気持ちは強まる一方なンだ……」
「そう、荒北くんも本気なんだね。
……私もちょっとだけ本気だったけど…………信じてくれる?」
「アア、疑うわけねーだろ。
…………またオレが授業当てられる日は教えてくれよな」
「いいよ。
ほんとに自転車以外はてきとーなんだから」
「悪かったナ。じゃーな」
「うん、また学校でね、荒北くん」