インターハイの山頂をキミに[東堂VS荒北VS真波]
第1章 きらりと光った涙
月日はあっという間に巡り、春が訪れる。
新たなはじまりを告げる桜が咲き誇る朝だった。
「今日は入学式か……うん いい風だ」
さわやかな風がそよぐ中、自転車で山を駆け上る少年がひとり。
少年は少しだけ考える。
今折り返さないと遅刻だ……でもオレ登りたい!
今日登っとかないと、明日登っても同じ感動は得られない。
あっさり決断した少年は勾配をものともせず、山頂へ近づいていく。
「ふぅ着いた……やっぱ坂はいいなー」
山頂で木陰に入り水分補給をしていると、どこからか信じられないくらい美しく、透明感のある歌声が聞こえてくる。
「――――いつか君を信じ裏切られ 深く開いた傷を残すのを
恐れ迷い嘆き偽って避けようとしている――――」
声をするほうへと近づいていくと、ひとり天を仰ぎながら目をつむって歌うのは、なんとも麗しい女だった。
「――――どうして濁った嘘で薄められた世界で
風を斬り
純真なものだけを拾っては磨けるの?――――」
遠慮なく近づいて、近づきまくって、このカオが目を開けたらどれだけ美しいのだろう?と少年は想像した。
「――――涙が滲む前に 心が枯れ尽くしてしまいそうな孤独しか知らない――――」
息がかかるくらいまで接近し、彼女からふわりと漂う甘い匂いを吸いこんだところで、女はぱちっと目を開けて固まった。
「きゃ―――――――――!!」
「あっ 気にしないで。続けて、続けて!」
女は少年をきっとにらんだ。
「続けるわけないでしょ、盗み聞きみたいなことして!
てかその制服!ハコガクじゃない!
私、箱根学園のひととは話さないって決めてるの!
だいたいハコガクってろくなやついないんだから。
車道を我がもの顔で疾走するし、そのカオはムカつくし、まあ信号は絶対守るし、インターハイも頑張ってたし、団結力みたいなのもすごいって皆言うけれど……」
「あれー?話さないっていう割にはよく話すなあ。
それにしてもきれいな声だねっ」
「はああ?!何あんたかっこつけすぎ!
その触覚もかっこいいと思って伸ばしてるのかも知れないけど、全然かっこよくなんてないんだからっ」
少年はへらりと笑って
「これは生まれつきだよ」
「うそ!絶対毎朝セットしてるんでしょ―――!」