インターハイの山頂をキミに[東堂VS荒北VS真波]
第3章 問うことなかれ、それは恋か?
「――――ずっと忘れないよ たとえ誰か見つけたとしても
君が残してくれた思い出には何も勝てない――――」
東堂も、思いもよらぬ形での彼女との再会に、昂ぶる心を抑えることができずにいた。
ああ……オレの求めていたひと。
こんなに近くにいたのだな…………
なぜもっと早く再会できなかったのだろう。
あの時は一言も声を聴くことができなかったが、キミはこれほどまでにかわいらしい声で鳴くように、甘えるように歌うのだな。
東堂は確かな自信を持ちながらも、わずかに緊張して、震えながら精一杯歌う彼女に今すぐ駆け寄って抱きしめたい衝動に駆られていた。
「――――君が伸ばした手を掴めるか 試しもせずに目をつむった
懐かしさより鮮やか過ぎる景色がにじむ そして褪せる――――」
ふたりより冷静であった真波も、やはり突然の再開に驚きと喜びを隠せずにいた。
なんて……なんて透明感があって、のびやかな歌声なんだろう。
あのコが発したひとつひとつの単語が、色づき華やいでオレの周りを鮮やかに照らしていく様だ。
知らなかったな……自転車以外にも“生きてる”っていう実感を呼び起こされる瞬間があるってこと!
その女、が歌った曲は救いの無い失恋の歌詞であったが、魅入られた三人に気付く余裕があるはずもなかった。
「――――あの時深い眠りに着いた 君への思い閉じ込めたまま
季節は止まり 体は凍え 約束の日は遥か遠く――――」