• テキストサイズ

【呪術廻戦】無下限恋愛

第36章 固陋蠢愚


 からかうような声音じゃない。

 でも、その言葉が私を慈しむためのものでないことも分かってる。


 宿儺にとって、所詮私は、都合の良い駒。

 宿儺優位の縛りを結んだ愚かな弱者でしかない。

 分かってるよ。

 分かってるから、そんな自分が大嫌いだったんだよ。

 大嫌いだったから、強くなろうとしたんだよ。

 



『綾瀬さん』





 大丈夫。

 もう、宿儺の知ってる弱い私じゃない。

 ほんの少しだけ。

 でもちゃんと、私はあの時よりも強くなってるから。


(大丈夫)


 不安でも、自分に言い聞かせるの。

 呪いなんかに、負けない。

 今、私にできることは、これしかないの。

 だったら、がんばれ。


 私はまだ、七海さんと話したいことが……たくさんあるよ。

 このまま何もせずにいたら、私は一生後悔するから。


 だから……。


《……馬鹿が》

「皆実……っ!」

「虎杖くん、穴が開いたら……あとはお願いっ」


 黒球に指先が触れる。

 同時に、身に纏った無限を解いて、すべての呪力の吸収を許した。


 瞬間、身体中がビリビリと電気を浴びたように痺れていく。

 身体の中を呪力が駆け巡り、暴れ出す。


(……っ、まだ!)


 呪力の塊を奪うように吸わなきゃ、壊れない。

 この黒球に穴を開ける……それができるだけの呪力を……っ。


(七海、さん!)


 手の感覚はもうなくなってる。

 腕が私の身体にちゃんとくっついてるのかも分からない。

 痛みも痺れも越して、無の感覚。

 身体中をうるさく声が鳴り響く。ツギハギの呪力が溢れかえって、私の自我を奪っていく。


 でも……。


「皆実!」


 脳を焼き切りそうなほどの呪力を吸い切って、拳一つ分、黒球に、穴が開く。


「あとは……任せろ」


 倒れかけた私を抱き留めて、虎杖くんが私を地面に下ろしてくれる。


 そして、私が開けたわずかな穴をこじ開けるように。

 虎杖くんがその穴に腕を差し込んで黒球を突き破り、中に消えていく。
/ 612ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp