第36章 固陋蠢愚
(どうか……七海さんを……)
七海さんを、助けてほしい。
どうか無事でいて。
《ドウセ オマエガ ノロイコロス》
大丈夫。
《シリヌグイ デハ スマナイ》
呪いなんかに、負けないよ。
《オマエガ アノジュジュツシヲ コロス》
少しは……強く、なったんだよ。
《ゼンブ オマエノ ノロイノセイ》
でも…………まだ、まだ……弱いんだ。
《オマエガ ゼンブ コワス》
……自分が……消えていく。
……それが……怖いの
《ノロイコロセ》
五条、先生……。
消えそうな意識の中、やっぱり思い出すのは……傑さんじゃなくて、五条先生なの。
『悟のキスを、好きになったかい?』
傑さんを忘れようとした……私が悪いの。
全部……私への罰なんだよ。
《コロセ》
身体中に巡る呪いの声。
それらが鋭い刃に変わって、私の身体中をズクズクと刺していく。
遠のく意識の彼方……、大嫌いな声がする。
《言ったはずだぞ……二度はないと》
夢かもしれない。気まぐれかもしれない。
これが現実なら……きっとそれは、ただの偶然。
でも大嫌いな呪いが、七海さんを助けてくれてるの。
私の願いを叶えてくれるの。
でも、それが嬉しいのかも、悔しいのかも、もう……よく分からないの。
内側から溢れてくる呪いの声が……全部奪ってく。
《オマエが死のうと、どうでもいい。……皆実と、伏黒恵以外は……心底どうでもいい》
宿儺の呟くような声を最後に、私の意識は途切れた。