第36章 固陋蠢愚
「七海さん……っ!」
私は急いで地上に飛び降りて、黒球に駆け寄る。
「ざけんな!!」
虎杖くんが黒球を叩き続けるけれど、全然球が割れる気配がない。
(嘘……でしょ)
これがもし、宿儺の見せた術式と同等の強力な技なら……七海さんは――。
最悪な考えが頭に浮かんで、私は即座に黒球に手を伸ばす。
けれど、その声が、私の行動を阻んだ。
《やめておけ、皆実》
私の指先が黒球に触れる寸前で、虎杖くんの顔に口が浮かび上がった。
「宿……儺」
「宿儺、オマエ今さら出てくんじゃ……っ!」
《それに触れれば……オマエの理性が壊れるぞ》
虎杖くんの言葉を無視して、宿儺が告げる。
その口は笑ってはいない。
おそらく、これは真面目な忠告だ。
《領域展開……呪力を用いた最高峰の術式。その黒球に閉じ込められた呪力量は……単に身体に触れて吸収する呪力量などと比べ物にはならん。最悪……オマエが死ぬ》
理性を壊すほどの呪力。
そしてこの呪いの質を考えれば、私の身体をどれほどの痛みが巡るかは容易に想像がつく。
小学校の事件で、本能のままに伏黒くんを呪おうとした……あの程度では済まないだろう。
宿儺の言う通り、最悪理性ごと全部焼き切れて死ぬかもしれない。
《まだ……オマエに死んでもらっては困る》