第36章 固陋蠢愚
真下に転がる元人間を見つめて、虎杖くんは唇を噛む。
「迷ってた。……まだ迷ってたんだ。でも……」
虎杖くんが私のことを振り返る。
その顔は、やっぱり苦しげに歪んでた。
「俺も……殺す覚悟を、決めるよ」
迷って、悩んで、その優しい心が悲しい選択をした。
泣きそうな顔をした虎杖くんが、そのまま私のことを抱きしめた。
「……迷って、皆実の手を汚させてごめん。……弱くて、ごめんな。……また皆実に助けられた」
虎杖くんの身体が震えてる。
優しい君が、その覚悟を決めるのにどれほどの気持ちが必要だったかなんて、きっと私には一生分かってあげられない。
でも、私には分からないほどに苦渋の決断だったってことは分かるよ。
「……虎杖くんは強いよ」
羨ましくなるくらい、強いんだ。
だって私はまだ、迷ってる。
傑さんを追わないと決めても。
傑さんを敵だと認めることはできなくて。
もしも傑さんと敵対することになったら、私は戦えるか分からない。
自分が大事にしていた信条を覆すことの難しさを……私も今、痛感してるの。
だから……虎杖くんは、強いよ。
「……強いから」
私にはできないことも、虎杖くんならできるよ。
「虎杖くんが……ツギハギを祓って」
虎杖くんになら、きっとそれができる。
縋るように虎杖くんの顔を見上げたら、虎杖くんはゆっくりと頷いてくれた。
「皆実も一緒に」
虎杖くんが私の手を引く。
虎杖くんがそのまま渡り廊下を飛び降りようとしたから、私は虎杖くんの腕を引いてそれを止めた。