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【呪術廻戦】無下限恋愛

第36章 固陋蠢愚


(七海さん……っ!)


 ツギハギの手によって、七海さんが校舎の壁に吊るされている。

 視線を少し逸らせば、その上階の渡り廊下の上で、虎杖くんが『元人間』に応戦していた。


(……っ)


 どちらの状況も最悪。

 でも私が加勢できるのはどちらか一方。

 酩酊を使うことさえできれば、ここでツギハギの行動を停止させて七海さんを助けられたのに。

 ツギハギの呪力を失った私にはそれができない。


(最善を……考えろ)


 けれど悠長に考えている暇はない。

 もしも七海さんなら、この場合どういう指示を出すだろう。

 それを考えれば、答えはすぐに見つかった。


「虎杖くんっ!」


 私が守ることのできる人を選んで、私は地上に声を飛ばす。

 私の声に気づいて、虎杖くんが顔を上げた。


「……っ! 皆実……っ!? ちょ……待って! 危な――っ!」


 虎杖くんの制止の声も聞かず、私は地上へと飛び降りた。

 空気抵抗を相殺するように、全身に呪力を巡らせる。

 そうして、私は虎杖くんのそばへと降り立った。

 着地してすぐ、腰に差していた小刀を手にする。

 虎杖くんに襲いかかろうとしていた小さな異形たちが私の方を振り返った。攻撃する相手を私へと変えて、飛びかかってくる。

 その異形に小刀を構えたら、虎杖くんが私の行動に声をあげた。

「皆実、ソイツらは……っ!」

「『元』人間だよ、虎杖くん」


 ツギハギの呪力で改造された今、この異形は呪力で祓うことができる。

 この両峰の小刀で祓うことができるのなら、もうコレは『人間』じゃない。


《……タスケテ》


 もしも私が、私の魂をこんな形に変えられてしまったなら、早く助けてほしいと願うから。

 もう戻れないと、分かっているから。


「……殺すことが誰かを救う時もあるって、私はそう思ってる」


 自分に言い聞かせて、私は呪力を込めた刃を振るう。

 私の呪力で両断されて、異形がその場に転がった。

 そうして1人を殺した私に別の異形が襲いかかってくる。

 その異形にまた刀を振りかざそうとして……私の視界は大きな背中に塞がれた。


「……ごめん、皆実」


 私の目の前で、虎杖くんは私を庇うようにして異形をその手で殺した。
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