第36章 固陋蠢愚
今もそれを望むなら、私は今すぐ傑さんを追いかけるべきだ。
追いかけないのなら、もう二度と、それを望むことはできなくなる。
(……傑さん)
大好きだった。
今でも、大好きだよ。
呪霊と行動を共にしていることにも、きっと傑さんの中で意味のある行為なんだって信じてる。
でも。
でもね。
それを今の私はもう……肯定できないんだよ。
傑さんしかいなかった世界を抜け出した。
今の私の世界には守りたいものがたくさんある。
傑さんの優しさしか知らなかった私の心は、もう……充分すぎるくらいたくさんの優しさを知ってしまったから。
「……ごめん、なさい」
追いかけることができなくて。
忘れようとして。
ごめんなさい。
傑さんだけを……大事にできなくて、ごめんなさい。
「……傑、さん」
正解なんて、分からない。
でもきっと……私は今の傑さんを追ってはいけない。
傑さんだけを守りたかった世界は、もう終わりを告げてる。
今の私が生きる世界は、たくさんの守りたい命で溢れてる。
だから……その命を守るための行動を、考えたいの。
それが、答えだよ。
《オロカ》
嘲笑えばいい。
《コウカイスルゾ》
それでもいいよ。
後悔を恐れて逃げるよりも。
私は目の前の守れる命を救いたい。
(動け……っ、私!)
脚を叩いて、力を奮い立たせる。
立ち上がって、私は……屋上から地上を見下ろした。