第36章 固陋蠢愚
どれくらい、時が経っただろう。
喧騒が響いてる。
呪いが蠢く声がする。
この校内のどこかで、誰かが戦っている。
(誰……か)
それが誰なのかは、わざわざ考えなくても分かること。
(七海さんも……来てる)
七海さんの呪力の気配が、いつの間にか、この帳の中に入ってきていた。
おそらく今、虎杖くんと七海さんがツギハギの呪霊と対峙してる。
だから、私も参戦しなきゃいけないのに……。
『皆実』
頭の中で木霊する声が、私の思考も行動も全部停止させる。
考えたところで、私の頭じゃ答えを見つけられないことくらい分かってるのに。
どうして、って考えてしまうの。
(……行かなきゃ)
力の入らない身体をどうにか動かそうと試みる。
腰を浮かすように、体を動かそうとして、身体がチクリと痛んだ。
《イッテ、ドウスル》
身体の中を流れる呪いが私に尋ねてくる。
私にできることなんて、一つしかないのに。
七海さんと虎杖くんの元に行って、一緒に戦う。
それが、呪術師である私の務めだ。
《オマエハ ムリョク》
呪いの声が嘲笑う。
体内にツギハギの呪力を保っていられれば、『酩酊』でツギハギの行動を止めることができた。それだけで、虎杖くんと七海さんの助けになれたのに。
今の私の身体にはツギハギの呪力が残っていない。
意図的に、傑さんはその呪力を私から奪った。私がツギハギの呪力を操作しないように。
その行動は、私たち呪術師と敵対していることの意思表示みたいなもの。
《オマエハ ドウスル》
《アイシタオトコハ ノロワレタ》
《オマエモ ノロイニ テンジロ》
うるさく喚く声。
でもそれはかつての私が望んだ末路。
私の歩む先は……ずっと、傑さんの隣だって。
そう、信じてた。