第36章 固陋蠢愚
「それじゃあね……皆実」
「待って……っ」
「ああ……一つ忠告しておくけれど」
顔だけ私のことを振り向いて、傑さんが口角を上げた。
「私と会ったことは……悟には言わないほうがいい」
その笑みが、企みを含んだものなのか。
傑さんが五条先生に向けた慈愛の感情なのかも、私にはもう分からない。
「……悟を大事に思うなら、ね」
念を押すように付け加えて、私から言葉を奪う。
そうして傑さんは、再び私の前から姿を消した。
「……傑、さん」
嘘みたいな本当。
あの呪力は紛れもなく傑さんのもので。
傑さんの存在を否定する材料のほうが少なかった。
「……嘘だって、……言ってよ」
叶わない願いを口にする。
答え合わせはもう済んだのに、私はその答えを受け入れられない。
唇に残る、愛しかった懐かしい感触。
それが今はただ、痛くて苦しくて、しかたなかった。