第36章 固陋蠢愚
身体に力が入らない。
それでも無理矢理に口を動かした。
私の掠れた声が、傑さんを呼び止める。
傑さんの背中に、私は言葉を重ねた。
「どうして……」
どうして、生きてるの。
どうして、会いに来てくれなかったの。
聞きたいことなんて、挙げればキリがない。
でもそのどれも、今聞いたところで意味のないものばかり。
だから、私が今……聞かなきゃいけないことはたった一つ。
「どうして……こんなところに、いるんですか」
あの頃の傑さんも、たしかに非呪術師を恨んでた。
でも呪霊と手を組むなんて、そんな愚かなことをするような人じゃなかった。
「呪霊と、手を組んで……何を……しようと、してるんですか」
あの頃の私は、傑さんの考えていることを、全部知りたいと思っていた。
でも今は……傑さんの考えてることを知るのが怖い。
本心を、知るのが怖い。
「傑、さん」
何かの間違いだと、否定してほしい。
考えすぎだよって、困り顔で笑ってほしいのに。
私を振り返った傑さんは、不気味なくらいの笑顔を携えていて。
「さあ……なんだろうね」
私の疑問を否定しなかった。
呪霊と手を組んでいることを、傑さんは肯定した。
少年院に宿儺の指を放って、私たちを苦しめたことも。
七海さんを傷つけた、あの呪霊の行動も全部……傑さんは知っていて、止めなかったんだ。
私を見下ろす傑さんの目には、絶望に濡れた私の顔が映ってる。