第36章 固陋蠢愚
「ぃ……やっ」
「ははっ、……私のキスが嫌になる日は来ないと言っていたじゃないか」
私と傑さんだけの思い出。
それを口にする以上、この人が傑さんなんだと認めるしかないの。
「すぐ、る……さん……っ」
「君の体液の味は……昔と変わらず本当に美味だな。……ずっと、味わっていたいくらいだ」
笑みをこぼしながら、傑さんの唇が私の唇を貪り尽くす。
私と傑さんの繋がりが、すべて呪いで満ちて流れてく。
「……けれど」
傑さんは私の両頬を押さえて、私が逃げられないように固定する。
否応なしに映り込んだ傑さんの瞳は、昔と変わらない色を帯びていた。
でもその色に、昔のような優しさの熱はなかった。
「私の残穢を君に残しておくわけにもいかないからね」
傑さんは器用に私の口内の唾液を舐め尽くして。
「真人の呪力も一緒に……もらっていくよ」
私の中から、自らの呪力とツギハギの呪力を奪っていく。
「や……ぁ…っ」
音を立てて、すべて壊れてく。
私の身体をコントロールするように、私の体液に含まれた呪力を傑さんは選びとった。
唇が離れて。
もう私の中に傑さんの呪力もツギハギの呪力も残ってなかった。
腰が抜けた私はその場に座り込む。
でもやっぱり、傑さんはそんな私を抱き留めたりはしなかった。
無様に地面に座り込んだ私を、傑さんが見下ろしている。
「時が来たら……また一緒にいられる」
私の目の前にしゃがみ込んで、傑さんが小首を傾げて笑った。
「だからそれまで……いい子で待っているんだよ」
私にその呪力を残さないように。
私に触れることなく、傑さんが私に背を向ける。
また、私の前から、傑さんがいなくなる。
まだ、何も聞けてないのに。
「傑、さん……っ!」