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【呪術廻戦】無下限恋愛

第36章 固陋蠢愚


 この屋上に……私と、その人だけが取り残された。


「ごめんね。せっかくの再会が慌ただしい形になってしまって」


 そんな気遣いの言葉はいらない。


「や……めて、ください」


 あの人のように眉を下げたりしないで。

 あの人が口にしそうな気遣いを口にしないで。


 違うの。

 あの人は呪霊を使役しても、手を組んだりしない。

 あのツギハギから呪霊操術の気配がしない以上、アレは使役した呪霊なんかじゃない。


「どうしたんだい? 皆実」

「あなた、なんか……知り、ません」


 非呪術師を憎むのと同様に、いや、それ以上に。

 呪霊の存在を憎んでいたはずのあの人が……。

 呪霊と手を組んで、呪術師を傷つけようとするはずないの。


「……あなたは……いったい、誰なんですか」


 私の問いかけに、その人は笑顔のまま。動揺なんてまったくしていなかった。


「誰って……悲しい事を言うね。さすがに……覚えてくれていると思っていたんだけどな」


 当たり前だよ。

 その顔を、声を、忘れるはずない。

 でも……だからこそ、違うんだよ。


《チガワナイ》


 言い聞かせるように心の中で呟いた言葉に、体の中の呪いが答えてくる。


(……うるさい)

《コイツガ、ゲトウスグル》

(違うから、黙って)

《フレテミレバワカル》


 触れなくたって分かるよ。

 あの人がこんなところにいるはずないの。


「皆実……これでも、私を否定するかい?」


 その人の手が、私の頬に触れる。


(だめ……呪力を吸っちゃ……だめ)


 この人は、傑さんじゃない。


《フレテミロ》


 傑さんがもし生きてたとしても、こんなところにいるはずない。


《ムゲンヲ、トケ》


 非呪術師を憎んでも、呪いに翻弄された私たちを守ってくれた。

 こんな無差別なこと、するような人じゃないの。


《コタエハノロイガオシエル》


 答えなんか知らなくていい。

 分かりきったことなの。答え合わせなんてする必要ない。


 目の前にいるこの人が、誰なのか……知る必要はない、のに。


「呪力をコントロールできるようになった、か。……ならば」


 私の唇を奪う――この口づけを、私は知ってるの。
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