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【呪術廻戦】無下限恋愛

第36章 固陋蠢愚


 あと一歩、踏み出すだけだった。

 でも私の足は、そこで止まる。



「漏瑚も君くらい、冷静だと助かるんだけどな」



 何の前触れもなく、流れた声。

 その声が聞こえた瞬間、私の唇はピクリとも動かなくなった。

 すぐにでも術式を発動できるように、掴んでいたはずのツギハギの呪力も、私の手を離れて流れていく。


(……い、ま……)


 聞こえるはずのない声が、聞こえた気がした。

 でもそんなことはありえない。

 ありえるはずが、ないの。


《アレはアレで素直でカワイイじゃない。それより良かったの? あの指、貴重な呪物なんだろ?》


 ツギハギが言葉を重ねる。

 それは独り言じゃなく、確かにそこにいる相手へ向けたもの。


「いいんだ。少年院の指はすぐに虎杖悠仁が取り込んでしまったからね」


 間違えようのない声が、ありえないことを口にしてる。


(う、そ……だよ…ね)


 少年院にいた、あの呪胎に宿っていた指の行方を……どうしてこの声が、知っているの。


「吉野順平の家に仕掛けた方は高専に回収させたい」


 記憶に染みついた声が……何を、言ってるのか……分からない。


《悪巧み?》

「まぁね。それじゃ私はお暇させてもらうよ」


 靴音が、やけに鮮明に聞こえてくる。

 曲がり角の先、そこにその声の主がいる。


(……逃げ、なきゃ……)


 知ってはいけない。

 この声の主が誰なのか、私は知るべきじゃない。


《夏油も見てけばいいのに。きっと楽しいよ。愚かな子供が死ぬ所は》

「確かにね。……でも私は」


 曲がり角から、大きな体が現れる。


「美しい少女が絶望している姿を見る方が、楽しいよ」


 その口から、私を嘲笑う言葉が溢れた。
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