第35章 幼魚と逆罰
「自己満足かもしれません。でもまずは、アナタが自分の心を変えなければ……相手の心も変わりませんよ」
ボロボロになった私の心を、七海さんが一つ一つ繋ぎ合わせていく。
「私がもしもアナタの恋人ならば……アナタが他人と口づけを交わした事実以上に……アナタが他人との口づけに多少なりとも感情を抱いたという真実のほうが不満に思いますよ」
大事なのは事実ではなく、真実なのだと。
そんなの屁理屈でしかないのに。
七海さんが言うから、その言葉が正解だって思ってしまうの。
「七海さん……」
宿儺と縛りを結んだ時点で、私にはもう五条先生を裏切る道しか存在しない。
それでももし、その裏切りを自分の中で肯定することができるなら。
「もしもそんな考えができるようになったら……」
『……僕と誓える皆実になってよ』
「その『特別』は大好きな人への……誓いになりますか?」
掠れた声で響いた私の問いかけに、七海さんはほんの少しだけ、小さく笑ってくれた。
「少なくとも……私なら、喜んで誓いますよ」
それは、私に都合のいい返事。
でも七海さんが、この問いかけに嘘を吐く必要なんてどこにもないから。
これも、きっと真実なんだって。
七海さんがくれる言葉だから信じられるの。
「……七海さん」
ごめんなさい。
最後にもう一度、心の中で謝って。
私は七海さんの背中に手を回す。
「あとでまた……いっぱいお小言聞きますから」
七海さんのお小言をちゃんと聞いて、努力するから。
だから。
「私を……助けて、ください」
いつか、きっと七海さんを守れる呪術師になるよ。
だから……どうか今だけは、弱い私を助けて。
私から、呪いを奪って。
そんな私の願いを聞き届けるように、私を抱きしめる七海さんの腕に力がこもった。
「……ええ、全力で」
七海さんの唇が、再び私の唇に重なる。