第35章 幼魚と逆罰
溶け合うように流れ出す呪力がどうしようもない快楽の渦を巻き起こすけれど。
(……大丈夫……大丈夫だよ)
この口付けには、呪い以外、何も介在しない。
そう言い聞かせて。
私は七海さんの舌に自らの舌を絡ませる。
できるだけ七海さんの負担にならないように、ゆっくりとこの毒を流す。
啄むように、舌を舐めて。
ほんの少しずつ、慎重に。
流れる呪いの濃さを確かめるように、口づけを交わしたら、ただひたすらに快楽が増幅して。
「……っ、ぅ…ん」
「……ん……っ…綾瀬、さん」
「…ふっ……ん……」
「……………せめて…っ……声は、我慢…しなさい」
「……っ…ぇ…ぁ…だ……って……ぅ、ぁ」
七海さんの口づけが、私の暴発した呪いを全部快楽に変えていくから。
どう頑張っても、声は抑えきれなかった。
でもそれだって……。
「……猫の、鳴き声…みたいな、もの、です」
七海さんの理論で言うならば、『猫が鳴いたところで欲情はしない』って。
それと同じなの。
唇を重ねたままそう伝えたら、七海さんは小さくため息を吐いた。
「本当に……困った子ですね……アナタは」
七海さんは眉を下げて、悩ましい顔してる。
でも口づけを止めることはしなくて。
私の呪いが鎮まるまで、七海さんは私の唇をあやしてくれた。
そんな七海さんの優しさに、私のほうが困っちゃうくらいなんだけど。
その気持ちだけは、私の心の中だけの秘密にした。