第35章 幼魚と逆罰
「アナタが呪力を吸収する以上、これから先もこういう事態は起きるはずです。その度にアナタはただの呪力の交換に気を病んで、死を覚悟で血を流しますか?」
七海さんは私の心に手を差し伸べてくれる。
その手を取っちゃいけないって。
七海さんのことを思うなら、私はその手を拒まなきゃいけないって。
分かってるのに。
「好きでもない相手との口づけは不快かもしれませんが、守られる立場にいる間はそこを割り切りなさい。それが嫌なら、早く……守る側に転じなさい」
好きでもない相手とのキスが不快なのは、七海さんだって同じなのに。
七海さんは、こんなことになってる私を、絶対責めなくて。
涙が止まらないのは……不快だからじゃないよ。
七海さんの気持ちが優しすぎて痛いからなんだよ。
でもそんな大事な理由に限って、七海さんは分かってくれなくて。
「それでも苦しいのなら」
私の涙を苦痛の感情と捉えて。
七海さんはまっすぐ私の目を見た。
七海さんの熱を秘めた瞳に、泣きじゃくる無様な私が映ってる。
「アナタが思い悩むなら、せめて……アナタの気持ちがこもった口づけだけを『キス』と称してください」
私の呪いを受けたはずなのに。
七海さんはまだ、私の気持ちを汲んだ言葉を綴ってくれた。
「数ある口づけの中で、その人に与えた口づけだけが『特別』な『キス』なのだと……そう思うだけで心は変わるはずです」
私の涙を拭いながら、七海さんは私の心を解いて。
心の在り方を、私に教えてくれた。