第35章 幼魚と逆罰
「アナタがそうなっているのは、ツギハギの呪力を相当吸ったからでしょう? 私があの呪霊に遅れを取らなければ……アナタがその呪力を吸う必要はなか――」
「違います」
やめてよ、違うの。
七海さんのせいなんかじゃない。七海さんは私がいなくてもあの呪霊を1人でどうにかできたの。
全部私が勝手にしたことで、勝手に足を引っ張ったの。
「これは……全部、私の……自業自得なんです」
だから、放っておいて。
「私を……これ以上…足手まといに……しないでください」
呪力の制御ができなきゃ、足手まといのままなんだよ。
だから今、体内で暴走した呪いも全部、私が自分で処理しなきゃダメなんだよ。
「貧血なんて……慣れっこです……大丈夫、です」
だから、早く……この呪いを流させて。
じゃないと……。
「呪力を流さないと……七海さんに…迷惑がかかります……から」
理性が焼き切れたら、私は自分を止められない。
だからそうなる前に……制御させて。
転がった剃刀に手を伸ばす。
でもその手はやっぱり、七海さんに捕られてしまった。
「七海さん……っ」
「黙って」
反抗しようとした私に、七海さんが強い口調で私から言葉を奪う。
「……私の『迷惑』をアナタが勝手に決めないでください。今アナタが失血によるショックで倒れることのほうが『迷惑』です」
七海さんは言葉を包むことなく、はっきりとそう口にした。
「いいですか、綾瀬さん。何度も言いますが、アナタはまだ子供です。守られて当然の立場にいるんです。だからこそ私がアナタを守ろうとするのは大人として当然の義務です」
子供を守るのが大人の役目だと。
映画館で『元人形』と戦った時も、七海さんは私と虎杖くんにそう教えてくれた。
絶対に、揺るがない意思を、七海さんは突きつけてくる。
「けれど……子供のアナタには大人の私を守る義務はありません」
それはまるで拒絶のように、聞こえて。
私の心が悲しく揺れる。
そんな私の感情を見透かして、七海さんは言葉を付け加えた。
「だからといって、誰かを守りたいという気持ちを否定するつもりもありません」