第35章 幼魚と逆罰
メガネを通さない、その瞳には情けない私が映ってる。
七海さんが入ってきた拍子に、向きを変えたシャワーヘッドが、私と七海さんの身体を濡らした。
「何を、してるんですか……アナタは」
「……七海さんこそ…お風呂に…入ってくるなんて、どうか…してますよ」
私の減らず口に呆れて、出て行ってくれればいいのに。
七海さんは全然動揺してくれなくて。
「着替えも持たずに出て行って、シャワーの音が聞こえてくれば変でしょう」
「……それは」
「一応、入る前に声はかけましたよ。ソレに夢中で気づかなかったみたいですが」
七海さんはシャワーの水栓を閉じて、転がった注射器と剃刀に視線を向ける。
七海さんの大きなため息がその場に残った。
「家入さんがアナタの血をギリギリまで抜いています。これ以上血を流せば、冗談抜きに死にますよ」
淡々と、事実だけを口にする。
たしかにこれ以上失血すれば、死んじゃうかもしれない。
でも今だって、死にそうなくらいに身体が痛くて、熱いの。
この痛みを、苦しみを、七海さんは知らない。
でも、知らなくていいの。
「七海さんには……関係ないです」
だから放っておいて。
呪われた私に、かまわないで。
七海さんを巻き込みたくないって、そう思ってるのに。
「……関係ありますよ」
七海さんは私が動けないように、私の肩を押さえつける。
七海さんの心配そうな瞳が、私の心を刺した。