第35章 幼魚と逆罰
「……う、っ」
注射器の小さなシリンジじゃ、全然足りない。
こんなんじゃ、呪いは全然出て行ってくれないの。
《シネ》
うるさい。
《シンジャエ》
黙って。
《ダレモオマエヲタスケナイ》
いつだって、呪いは愚かな私を嘲笑ってる。
《ラクニナルホウホウヲエラベ》
浴室に飾られた剃刀に手を伸ばす。
綺麗な刃には、呪われた私の顔が映った。
「……針穴くらいじゃ……出ていけないんでしょ」
こんな小さな傷じゃ、満ちた呪いは出ていけない。
小さな扉から100人の人間が一気に通ることができないのと一緒。
簡単な話だよ。
扉を大きくすればいいだけなんだ。
「広げてあげるから……ちゃんと……出て行ってよ」
血の滲む注射痕に、剃刀を這わせる。
その手に力を込めようとして――。
(――っ)
扉の鍵が壊れる音と、剃刀が壁にぶつかる音。
同時に響いた音は、シャワーの音にかき消される。
「……七海、さん」
私の腕を掴んで、その人が目の前にいた。