第35章 幼魚と逆罰
《オマエガシネ》
一歩足を前に進めるごとに、針山に貫かれるような感覚に襲われる。
《イキテイルカチガナイ》
《ソンザイガアク》
《ノロイコロセ》
燃え尽くすような熱が私の身体を巡る。
熱くて、苦しい。
でもこの熱を処理する方法は……多くない。
五条先生がいない今、私にできる処理方法は一つだけ。
浴室の扉を開けて、鍵をかける。
制服を着たまま、私はシャワーの水栓を開いた。
制服が濡れないように、シャワーを他所に向けて。
(……ごめんなさい、五条先生)
でも今は、五条先生の監視下じゃないから。
約束を破ったことには、ならないよねって。
自分の心に言い訳をして。
私は、制服のポケットから注射器を取り出した。
お守り代わりにずっと持っていたソレを手にしたまま、制服の袖を捲り上げる。スカートのベルトで腕を縛れば、容易に腕の血管が浮き出た。
刻まれた複数の注射痕。
その痕に、重ねるようにして、そこに針を突き刺した。
陰圧に引き寄せられて、注射器の中にどんどん汚い紅が溜まっていく。
注射器がいっぱいになったら、その中身を洗い流して。
私はまた、新たな傷を腕に作り出す。
(……っ……だめだ……こんなんじゃ、全然)
抜いても、抜いても、呪いの声が消えない。
なぜかどんどんうるさくなっているようにさえ思う。
「なんで……っ……おさまって…よっ」
血の気が引いていく。
立っていられなくて、私はずるずると濡れた床にしゃがみ込んだ。
これ以上の失血は身体がもたなくなるって。
襲いくる吐き気と目眩が、身体のSOSを訴えてるのに。
それでも、止められなかった。