第35章 幼魚と逆罰
※皆実視点
《コロセ》
《キタナイ》
《ミニクイ》
《シネ》
《キエロ》
体内の、数多の呪いの声が絶えず喚いてる。
無数の刃に身体を刺され、叫び続ける呪いの声が私の耳を裂くように響いて。
無理矢理引き戻すように、意識が私の身体に落ちてくる。
「……っ」
ゆっくりと目を開けたら、知っている天井。
(ここは……七海さんの……家)
さっきまで、どこかのトイレ前の共用スペースにいたはず。
その後、伊地知さんに迎えに来てもらって家入さんの治療を受けに行ったはずなのだけど。
私にはその記憶がない。
ずっと気絶しっぱなしだった私を、誰かがここまで連れ帰ってきてくれた。
その誰かは考えなくても1人しか浮かばない。
隣のベッドから聞こえる寝息に、心が締め付けられる。
迷惑しかかけられなかったことを謝りたくて、私は身体を起こした。
(……い……っ)
身体中が悲鳴を上げている。
誰かを《コロセ》《ノロエ》と泣いている。
その悲鳴が私をズタズタに突き刺していく中、唯一親しめる痛みを、腕に感じた。
(……血を…抜いてもらったんだ)
自分の腕に刻まれた、新しい注射痕が目に入って、納得する。
恐らく家入さんが、私のキャパオーバーを察して血を抜いてくれたんだろう。
おかげで少し……ほんの少しだけ、理性は保ててる。
「……迷惑かけて……ごめんなさい」
眠る七海さんに、小さな声で告げた。
返事はない。
それが当然で、そうであるから私はその言葉を口にしたのだ。
「……七海さんが、無事で……よかった、です」
私の『家入さんの真似』では治らなかった傷が綺麗に治ってる。
七海さんの額から、冷や汗も消えていて。
自分のこと以上に、七海さんが無事なことに安心した。
(……よかった)
それ以外に心配なことなどなくて。
私はゆっくり、マットレスから立ち上がった。