第35章 幼魚と逆罰
「その言葉の通りだよ。キスとかセックスとか、まあ体液を交換できれば何でもいい。体液を介さない接触は綾瀬が相手の呪力を吸収する方に流れるけど、体液を介せば綾瀬の呪力が相手に流れる方へと転じる」
その報告を受ければ、五条さんがその事情を私に話さなかった理由になんとなく察しがついた。
「でも誰でも彼でもその呪力の交換ができるわけじゃない。何度も言うが、綾瀬の呪いは猛毒だ。受け入れられる人間は特級呪術師レベルの実力……あるいはそれに匹敵する呪いの耐性を持った者に限定される。……後者でいえば七海もいけるんじゃないか?」
「……冗談でしょう」
家入さんの楽しげな視線から、私は目を逸らす。
最後の発言は放っておくとしても、要するに綾瀬さんの呪力を調整できる人間はごく僅かに絞られている、ということ。
「だから……五条さんは綾瀬さんと関係を?」
「さすがにその件に関しては、それだけが理由じゃないだろう。どう変わってもアレはそこまで甲斐性のある人間じゃない」
家入さんはそう言って、また綾瀬さんに視線を向けた。
「五条は海外出張中……だったか」
「ええ。今朝、虎杖くんを私と伊地知君に預けてその後から」
本来であれば、この状況も五条さんを呼べば解決する。
けれど今はその簡単な解決策が使えない。
「一気に血を抜けば死ぬ。……毎日少量ずつ血を抜いて調整するしかないだろうな」
家入さんの治療法を聞きながら、私は綾瀬さんの青白い顔を見つめていた。